かすがい 子より官製物件!?

 求婚の言葉はロマンチックではない。だが、重みは決定的だった。

 「一緒にHDBを買おう」

 シンガポール空軍勤務のタン・シュージさん(26)と、5年のつき合いに

なる女性教師のツォー・チアチアさん(26)の場合だ。

 「HDB」は住宅開発庁のこと。転じて、同庁が建てた高層住宅を指す。

340万国民の85%がHDBに暮らす。新築物件の購入資格は、

21歳以上の既婚者か結婚予定者にしかない。

 シュージさんは高卒後、2年半の兵役に就き、工科大学を経て空軍へ入隊。

大学時代に、名門シンガポール大の学生だったチアチアさんと知り合った。

 「婚姻届は後回し。まずは住宅だな」と堅実なシュージさんは提案。

公立校で化学と情報処理を教える才女のチアチアさんだが、

投資も大事と考え、受け入れた。

 お気に入りの物件は、都心から電車で約40分の所に見つかった。

118平方メートルの4LDK。日本円で約1600万円。

2人で頭金を払って申し込み、ローンも折半と決めた。

 「結婚式は1年先。式のお金はないし、良い物件は待ってくれない」とシュージさん。

合理的で利にさといとされるシンガポール人は、結婚でも「物件」が先立つ。

競争率の高い人気物件にはとくに婚前予約が殺到する。

 チアチアさんは本音では、「婚姻届を出して挙式、それから家」という手順を望んでいた。

「家を買ったから、仲が悪くなっても結婚しなきゃならない」という重圧がいやだった。

 物件取得前に2人の関係が壊れれば、購入権はなくなり、前金も戻らない。

そこで“買っちゃった婚”に追い込まれる人もいる。

 「愛より物件」。本当にそうなのか。こんなデータがある。

 米ミネソタ大が日本、アメリカ、英国など9か国・地域で結婚前の恋愛関係を調べ、

05年3月に発表した報告書。シンガポール人カップルは39%が、

結婚直前なのに「相手に不満」と答え、1位。

逆に「相手に非常に満足」は最低の14%だった。

 シュージさんは「もちろん愛が一番大切」と思う。でも、高学歴のシンガポール女性は、

男性を見る目も厳しい。

結婚事情に詳しいシンガポール大学のポーリン・テイ・ストローガン准教授(社会学)は、

同大で行った調査をもとにこう語る。

 「祖父母や親の世代は打算的な結婚も多かった。

でも今の若い世代は『恋愛』が最大の結婚動機よ」

 それでも、「HDB購入」は動機の第3位。国民の大多数がHDBに依存する現状では、

やはり強力なかすがいなのだ。(シンガポール 花田吉雄、写真も)

 シンガポールの晩婚化 2004年度の平均結婚年齢は男性30.5歳、女性27.3歳。

過去20年で2〜3歳上昇した。女性の社会進出が進み、独身・晩婚女性が増えたため。

少子化も深刻で、04年の合計特殊出生率は1.24と過去最低を更新した。

(2006年1月15日  読売新聞)

 

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