離婚は面倒 自由求める

 パリに住むジュラン夫妻は結婚していることを公表していない。

結婚して5年。夫妻が結婚していることを知っているのはわずか数人の友人だけだ。

両親にもやっと半年前に知らせた。

 広告代理店に勤務する夫(38)と主婦の妻(42)の間には5歳の長男と4歳の長女の

2人の子供がいる。仲のいいカップルだ。

 「結婚という形態よりも2人の愛情を大切にしたかった。

結婚を通告しなくても何ら不都合はない」。2人は口をそろえる。

 フランス北部のリール大学で哲学や経済学、思想史を教えるフレデリック・ラビル教授(35)は、

「個人が宗教や階層に関係なく、自由に男女の関係を選択できるようになった。

2人の例はその象徴。社会は変わった」と言う。

 ラビルさん自身、結婚はしていない。パリ南西サンクール市に生まれ、高校卒業後18歳から、

ナンテール大学(パリ第10大学)経済学部で勉強、その後、助手を務めるかたわら10年間、

金融会社に勤める女性とパリ市内で同居した。その後2年間はダンサーの女性と、

3年間はグラフィックデザイナーの女性と、やはりパリの中心部で暮らした。

 「結婚に意味が見いだせない。万一の離婚手続きも煩雑。愛情がなくなったカップルが

一緒にいることは道徳感にも反する」

 離婚届に印鑑を押せば離婚が成立する日本と違って、フランスでは裁判所に離婚申請を

しなくてはならない。3番目につきあった女性が離婚するまで4年かけ、

多額の金も費やしたのを見て結婚への疑問を強くしたという。

 フランスでは、緩やかな関係を求める「ユニオン・リーブル」と呼ばれるカップルが1968年の

反政府運動「5月革命」を機に増加した。当初の考え方は、結婚自体を敵視するものだったが、

次第に「この方が自由」と考える傾向が強まり、ラビルさんらの世代にも急浸透してきた。

 99年には主に同性愛者からの要望で、結婚に準じた税制の優遇や社会保障などを認める

「市民連帯契約法」が成立。その略語で「パックス」と通称され、同性愛者だけでなく、

男女のカップルにも適用され、“結婚”の多様化が進んだ。

 ラビルさんはパックスにするつもりもない。結婚よりは緩やかな関係だが、

第一に外国で通用しない。

そもそも、同性愛者を対象に設定された制度であることに抵抗感が残る。

 もっとも、相続税の高さは熟考に値する。結婚していれば、夫婦間の相続税は、

5%から40%まで5%刻みの税額だが、パックスでは40%と50%の2種類、

ユニオン・リーブルなど他の関係では55%と60%の2種類と、非常に高くなるからだ。

高齢になって初めて駆け込みで結婚に切り替える手続きも増えている。

 共同生活して互いの生活リズム、性格を知る。相手が自分に合うと思えば結婚する――。

そんな傾向が自由を追い求めるカップルにはあったが、社会はまた、新しく変化し始めた。

ラビルさんも、人生のスタートとしてでなく、終章としてなら結婚してもいいと思い始めた。

(パリ 島崎雅夫、写真も)

 フランスの結婚事情

 ユニオン・リーブルやパックスなどのカップルは90年、150万人だったが、

04年に240万人に達し、6組に1組の割合となった。逆に、結婚の数は50年以降、

70年の約39万件をピークに次第に減少、04年は約25万件。

離婚は60年代から急増、現在は3組の結婚に1組の割合(パリでは2組に1組)。

数年前は3人に1人の子供が結婚していないカップルから生まれていたが、

現在では、婚外子は2人に1人となった。

(2006年1月15日  読売新聞)

 

 

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